未来の価値

第 20 話


「スザク、お前にもう一つ頼みがあるんだ」

皆のやり取りを静かに聞いていたスザクに、ルルーシュは言った。

「何?」
「この学園に、生徒として通ってくれないか?」
「僕が!?」

予想外の申し出に、スザクは目を見開き驚いた。

「今すぐという話ではない。お前はシュナイゼル兄上の部下だからな、俺がそう望んだからと言って、自由にできるものではない。だが、もしお前がいいと言ってくれるなら、これからお前がここに通えるように根回しをするつもりだ」

何せシュナイゼルは次期皇帝とも呼ばれている人物。
第2皇子でもあり宰相でもある。
全てにおいてルルーシュよりも上の地位にある人物の部下。
例え皇族と言えども、他の皇族の部下を許可も無く自由にしようものなら、なんたる無礼と相手側は憤怒し、皇位継承権争いの火種となるのだ。ルルーシュのために動いている純血派のように、所有者である皇族が許可を出した場合はある程度自由できるため、スザクの軍務以外の自由をルルーシュが手にするためには、これからシュナイゼルと交渉をする事になる。
どのような条件が提示されるかは解らないが、今以上に政務に忙殺される事は容易に想像できた。
そこまでして、スザクを通学させたい理由がルルーシュにはあるのだ。

「・・・つまり、僕に軍務の無い時には学園に通って、ナナリーの護衛をしつつ、ナナリーの様子を教えてほしいと」

ルルーシュが面倒な説明を始めそうだと悟ったスザクは、恐らくそうだろうと思うことを口にすると、ルルーシュはうっ、と言葉を詰まらせ視線をさまよわせた。
そう、これはスザクの為ではない。
あくまでもナナリーと、何よりルルーシュのための頼みごと。
通信機器は傍受される恐れがあるため、ルルーシュが直接ナナリーと話し事は難しくなるだろう。皇室に戻った以上、偽りの妹と関係を続けるのを周りは良しとしないだろうし、続けた場合、ナナリーが本当は皇女なのではと疑われかねない。
だから、間違いなくルルーシュは、何処かの段階でナナリーを完全に切って捨てるような発言をする事になる。偽りの妹をナナリーとして愛してはいるが、皇族に戻った以上その関係も終わらせなければいけないと、公表するだろう。
切って捨てた後はミレイ達を経由して知ることもまた危険となりうる。
そこで、スザクを使う。
スザクはまだ学生として通学できる年齢だから、何かと理由を着けて学園に潜り込ませる事は可能だと考えていた。
・・・碌に義務教育を受けていない人間が、最新鋭のKMFに乗るということは、ランスロットの品位を落としかねないとか、今後ルルーシュの護衛につく可能性があるとクロヴィスより打診されている以上、馬鹿を連れて歩く気はないと公言し、学びに行かせるなど、手はいくらでもあるだろう。
事実スザクは小学校までしか通っていないから、学歴に関していうなら皇族と関われない立場なのだ。だから、名門とも言われているアッシュフォードに入学させ、ある程度の学歴を持たせることはおかしくはない。
そんなスザクが、たまに雑談の中でルルーシュに学園内の事をポロっと漏らすぐらいは許されるはずだ。

「何難しい顔してるんだよルルーシュ。僕がまた学校に通えるって話しだろ?もちろんいいに決まってる。嬉しいな、もう学校なんて無理だと思ってたから」

だから、話しを進めていいよ。と、スザクは笑顔で頷いた。
軍務の最中に遠目ではあるが学生を見ることがあり、同じ年齢の子供たちが、何不自由なく学業に身を置く姿を羨ましく思うこともある。
・・・ただ、勉強は苦手だから、苦労はすると思うけど。

「すまないスザク。軍務だけでも大変だというのに」
「僕は大丈夫。問題は君のほうだろ?それでなくても寝る時間も無く働かされてるのに、僕の方の根回しなんて大丈夫なの?」

あれだけの書類の山に加え、スザク関係の処理も行い、尚且つスザクを自由にする代わりに、シュナイゼルからの仕事も増えるだろう。
スザクとしてはそちらの方が心配だった。

「それはどうにでもできる」
「どうにも出来ないから、睡眠時間が1日30分なんて事になったんだろ」

こんなこと続けたら、倒れちゃうよ。

「スザク!!」

呆れたように言われたスザクの発言で、ルルーシュが運ばれても目を覚まさないほど疲労していた理由が解り、ミレイ達は顔色を曇らせ、ナナリーは心配そうな顔をルルーシュに向けた。そんなナナリーを安心させるため、ルルーシュは「大丈夫だよ」と、優しい声をかけてナナリーの頭を撫でた。
生徒会で、恐ろしい早さで書類を裁く姿を見ている面々としては、そのルルーシュが仕事に忙殺されているなど想像もしていなかったに違いない。
捨て駒に使われるような地位の低い皇子が、どれほどこき使われているかも、それだけで嫌なぐらい理解できた。

「まだうまく処理しきれていないだけだ、すぐに慣れる。それより会長、スザクが通学できるよう、こちらの手配をお願いできますか?」

何せスザクはイレブンだ。
学力にも問題があるスザクを入学させる手続きは、アッシュフォードを頼らなければならならない。

「まーかせて。制服とか教科書類もこちらで用意しておくわ。クラスもリヴァル達と同じにするし、学園生活の方も出来るだけサポートするから安心しなさい」

それまでの、皇族であるルルーシュへ向けた言葉使いから、元の会長としての言葉使いに戻したミレイは、堂々と胸を張り、請け負った。
自分とナナリーのためだとルルーシュは言うだろうが、間違いなくスザクにその年齢相応の普通の生活をさせたいと思っているに違いない。
だから、この学園内で出来る事ならば協力は惜しまないと、ミレイだけではなく、リヴァルとシャーリーも力強く頷いた。

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